11/2024: 海事産業に対する勧告(改訂版)

Published 11 November 2024

2024年10月21日、プライスキャップ連合(以下、「連合」)は、ロシア産の原油および石油製品の取引関係者に対するベストプラクティスの推奨事項をまとめた「海事産業に対する勧告(改訂版)」を発行しました。初回勧告は、2023年10月12日に発行されています。改訂版では、国際的な海上安全および環境保全義務の遵守、タンカーの売買に関するデューデリジェンスの強化、制裁対象者とのやり取りの回避、内部意識の向上に関する新たな推奨事項(第8~11項)が追加されました。

連合は改訂版において、原油・石油製品の安全な流通を推進する決意を改めて示すとともに、合意済みプライスキャップの枠組みの外で行われている海上石油取引により生じる安全・環境・財務・法律面でのリスクの高まりを強調しています。

連合は、「影の船団」が関与する取引が増加していることを認識しており、それに伴う主なリスクとして以下のものを挙げています(これについては前回の勧告から変更はありません)。

  • 海上安全・海洋環境上のリスク:このような取引に従事する船舶は、多くの場合老齢船です。基準を満たしていない、または偽造された証書を保持している、基準を満たしていない旗国や未承認の機関が定めた不十分な安全・保守基準を採用している、船員の経験が浅い、といった問題があります。

  • 保険・経済上のリスク:連合は、油濁事故により甚大な環境被害と多額の処理費用が生じることを認識しており、「影の船団」が適切なP&I保険を付保していない場合、資本や再保険手配が不十分であったり、海難事故の対応に必要な専門的知見が欠如していたりする危険性があると強調しています。

  • 評判・物流・財務上のリスク:闇取引の実行者は複雑な、または秘密の企業構造を有することが多く、船舶自動識別装置(AIS)の無効化や操作に関与していることが強調されています。このような偽装行為により、関係者は知らぬ間に自社のコンプライアンスポリシーに反する取引に関わり、自社の評判を落とし、取引先からのリスク回避行動を招く可能性があります。

  • 法律・制裁上のリスク:ロシアがウクライナに戦争を仕掛けたことを受けて、石油プライスキャップをはじめとするさまざまな制裁や経済措置が導入されたことを、海運業界に改めて注意喚起しています。偽装行為や闇取引は、このような制裁や措置に違反することになりかねません。その新たな対策として、改訂版では、連合がロシアの石油取引に関与する特定の船舶および取引相手を直接の制裁対象に指定したことを海運業界に改めて注意喚起し、偽装行為がもたらすリスクを強調しています。

上記のリスクを踏まえ、連合は、業界関係者に対して引き続き以下の対策とベストプラクティスを推奨しています。

  1. 資本状況が適切なP&I保険の付保を要求する。1992年民事責任条約(CLC)および1990年米国油濁法(OPA90)に基づく責任が保険で十分にカバーされるよう、保険会社の財務健全性、実績、規制記録、所有構造などについて適切なデューデリジェンスを実施する必要があります。

  2. 取引先が国際船級協会連合(IACS)加盟船級協会の船級を取得済みであることを確認する。連合は関係者に対し、取引先がIACS加盟船級協会から船級を取得しており、船舶が予定する業務に適していることを確認するよう推奨しています。

  3. AISを適切に使用する。関係者は、航海中におけるAIS信号の継続的な発信を促すべきです。安全面に関する正当な懸念を受けてAISを無効にする必要がある場合は、それが必要となった状況を記録しておくべきです。また、船舶の実際の位置と一致しない不規則なAISパターンやデータについても入念に監視する必要があります。

  4. リスクの高い瀬取り(STS)を監視する。改訂版には、関係者はすべてのSTSがMARPOL条約の規則・規制および国内規制に準拠していることを確認しなければならない、とする項目が新たに追加されました。旧版と同様、違法な取引活動やAIS操作のリスクが特に高い地域におけるSTSでの石油貨物の移送に関する通知をはじめ、関係者がSTSに関するデューデリジェンスを強化する必要性についても注意喚起がなされています。また、船舶間での貨物の移送について説明のつく記録が油記録簿に記されていることも確認する必要があります。

  5. 輸送費・付随費用に関する情報を要求する。輸送費・付随費用(例:運賃、関税、保険)を膨らませる、または、そのような費用を一つにまとめる行為は、ロシア産原油が上限価格を超えて購入されたことを隠ぺいするために用いられる方策です。改訂版では、ロシア産原油の取引に関与する業界関係者向けに2024年2月から導入された要件について言及しています。業界関係者は、規制当局から要求された場合など特定の状況において、すべての既知の費用の内訳を要求する必要があります。

  6. 適切なデューデリジェンスを実施する。改訂版には、船籍や船名、所有者の度重なる変更があった船舶や、船齢、事故歴、欠陥、検査履歴を踏まえたリスクが高い船舶に対して、デューデリジェンスの強化を推奨する項目が新たに追加されました。

  7. 懸念のある船舶について報告する。業界関係者は、石油プライスキャップの違反疑惑をはじめ、違法または危険と思われる海上石油取引を把握した場合、関連当局に報告する必要があります。連合が2024年2月に発行した「コンプライアンスおよび執行に関するアラート」には、当局への報告方法に関する情報などが記載されていますので、こちらも併せてご参照ください。

  8. 船舶が国際的な海上安全・環境保全義務を遵守していることを確認する。改訂版では、海上石油取引の基準を維持するうえで、旗国および沿岸国が重要な役割を果たしていることが強調されています。勧告の中で言及されているのが、船舶が違法な活動を行っていないこと、安全・環境規制の遵守を逃れていないことの確認を旗国に求める2023年IMO決議です。改訂版では、ポートステートコントロール、沿岸国、その他関連当局に対し、そのような行為への対応策(入港船舶の拘留や入港の差し止め、領海および排他的経済水域(EEZ)内でのSTSの監視など)の検討も求めています。また、他の業界関係者に対しても、特に注意すべき船舶について旗国、寄港国、沿岸国、関連当局と協力するよう推奨しています。

  9. タンカーの売買を監視する。改訂版では、タンカーの売買・仲介に関与する者に対し、老朽化したタンカー(リサイクル対象となったタンカーを含む)を中心に、回避的または違法と思われる購入構造に対するデューデリジェンスを強化することを求めています。デューデリジェンスには、最終的な受益所有権に関する情報の取得、買主または関連する船舶管理会社が違法または危険と思われる行為に関与した船舶と以前に関係があったか否かの把握、詳細な連絡先、資金源、買主の受益所有者の証明書の写しをはじめとする情報の取得などが含まれます。

  10. 制裁対象者とのやり取りを避ける。改訂版では関係者に対し、常にリスクを監視し、関連国家当局が許可している、または適用除外を認めている場合を除き、制裁対象者とやり取りをしていないことを確認するため監視するよう注意喚起しています。関係者は、取引先と制裁対象者の間に最近取引があったか否かの把握など調査を積極的に行い、制裁違反リスクがないか確認する必要もあります。

  11. リスク意識と市場の透明性を高める。改訂版では関係者に対し、従業員や関連パートナー向けに、影の船団の活動や偽装行為のリスクに焦点を当てたトレーニングプログラムを作成するよう求めています。プログラムでは、危険信号の特定、偽装行為が海上の安全に及ぼす影響の把握、適切な報告手順、制裁リスク、透明性とコンプライアンスの重要性などのトピックを扱う必要があります。勧告では、偽装行為を撲滅するために、業界パートナーと情報やデータを共有するなど、関係者が情報を包み隠さず交換し協力し合うことを優先すべきだとも指摘されています。

OFACによる海事産業向け制裁遵守ガイダンス

2024年10月31日、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、「Compliance Communique: Sanctions Guidance for the Maritime Shipping Industry(海事産業向け制裁ガイダンス)」を発行しました。このガイダンスはシナリオ形式となっており、制裁回避の兆候と思われる新たな、またはよくある事実パターンの特定、取引先に対するデューデリジェンスでよくある問題への対処、制裁遵守を促すベストプラクティスの実施において、海事セクターの関係者を支援することを目的としています。

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メンバーの皆さまには、「海事産業に対する勧告(改訂版)」および「 海事産業向け制裁ガイダンス」をご確認いただくよう強く推奨いたします。なお、制裁に違反した取引については、保険のてん補対象外となりますのでご注意ください。また、制裁対象となるリスクの高い取引に従事するにあたっては、貿易チェーン全体において、取引に携わる、または携わる可能性のある当事者、貨物、船舶およびその他のサービス事業者に関して十分なデューデリジェンスを実施されることをお勧めします。デューデリジェンスの調査および所見の記録につきましては、忘れずに保管をしておいてください。

国際P&Iグループに加入するすべてのクラブが同様のサーキュラーを発行しています。

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