
機関室での燃料漏れや断熱材への油の染み込み、固定式消火システムのノズルの詰まり、消火ポンプの故障、換気ダクトに開いた穴など、ポートステートコントロールの検船中に防火装置・設備の不備が次々に見つかっています。しかも、毎年の検船結果を見てもこうした状況が改善する兆しはほとんど見られません。
Published 08 May 2022
後を絶たない防火装置・設備の不備摘発
今年4月、米国コーストガードが2021年版のポートステートコントロール(PSC)報告書を発表しました。これによると、検船中に見つかった不備のうち、船舶を拘束するに値する不備として最も多く挙げられたのは防火装置・設備の不備で、大半の年と同様の結果になっています。
SOLAS条約第II-2章第14規則では、すべての防火装置を良好な状態に保ち、いつでも利用できる状態にしておくよう求めています。また、第I章第11規則では、船舶の安全もしくは船舶による法令要件順守の維持を脅かすような不備がある場合は、船級協会および旗国主管庁に報告しなければならないと定めています。船舶が拘束されるのは、船体が海上を航行するのに適した状態でないと考えられる場合、または、発見された不備が船舶や乗組員や環境に過度なリスクをもたらす場合に限られます。米国のPSC検査官が過去5年間の検査で、防火装置・設備の不備の中で拘束に値する不備として特に多く挙げたものを以下に抜粋してご紹介します。
燃料油漏れ、断熱材・ラギングへの油の染み込み、機関室のビルジの油分過多、燃料タンクおよび潤滑油タンクの危急遮断弁の遮断不能など。いずれも機関室の保守・清掃手順がずさんである証拠。
火災探知器の断線や故障。煙探知機がビニール袋で覆われていたり、居住区の火災探知を電池式の一般家庭用煙探知器だけでまかなっていたりしたケースもあった。
防火扉の不具合、防火ダンパの故障、換気ダクトの損傷など、防火構造壁の要件違反。
固定式消火システムの故障。吐出弁が閉じたままになっていたこと、スプレーノズルにほこりやゴミが詰まっていたことなどが原因。塗料庫にあるスプリンクラーヘッドすべてに布が詰められていたケースもあった。
消火ポンプの故障、消火ポンプの水圧・水量不足、消火ホースの損傷・ひび割れ。
持ち運び式消化器のシリンダーの水圧が弱い、もしくは水圧がゼロになっている。
米国コーストガード発表の1998年以降のPSC年間報告書はこちらでご覧いただけます。
船舶火災の発生頻度は高止まり
毎年、船舶火災が多くの人命を奪い、船自体にも深刻な損傷を与えています。PSC検査時だけでなく、船舶の設計、建造、運航時においても、防火は非常に重視されているにもかかわらず、全体で見ると船舶火災の発生頻度は下がっていません。
北欧海上保険協会(Cefor)の2021年版年間報告書によると、大半の事故は発生頻度が減少傾向にあります。ただ、火災だけは例外です。業界では近年、コンテナ船やRoRo船での貨物絡みの火災がよく議論の的になっていますが、船舶火災の大半は依然として機関室が出火元となっています。Ceforの報告書の概要は以下のとおりです。
火災の発生頻度は毎年ほぼ同じ水準となっている。また、火災によるクレームは機関や航海関連のクレームなどと比べると頻度は低いかもしれないが、発生した場合の被害が甚大なため、クレーム額が巨額になる傾向にある。
火災の発生頻度が特に高いのはRoRo船、コンテナ船、客船で、これらの船で火災が発生した場合、被害額が巨額になる傾向にある。
コンテナ船の火災件数が増え続けており、船のサイズが大きくなるほど貨物積載区画での火災発生リスクも高くなっている。ただ、この件数の多さには機関室での火災も大きく影響しており、実際、2020~2021年にコンテナ船の機関室で発生した火災件数は貨物区画で発生した件数のほぼ3倍となっている。
Ceforの2021年版年間報告書のほか、外航・内航船体保険に関する北欧海上保険統計(NoMIS)報告の詳細は、こちらからダウンロードできます。
現在、コンテナ船とRoRo船における防火対策規制の見直し・改善提案が国際海事機関(IMO)海上安全委員会(MSC)の議題にのぼっている点は朗報と言えます。また、Ceforが2017年より、高温部付近での低圧燃料油システムからの燃料漏れによる火災が多発しているとして、警戒を呼びかけている点も注目です(Technical Forum Memo No.6参照)。この問題は船級協会や国際船級協会連合(IACS)でも取り上げられており、同様の火災リスクを減らすための有効な対策が話し合われているところです。
やはり重要なのは十分な手順と訓練と意識
結局のところ、船舶と乗組員の安全は、優れた設計であるか、そして会社と乗組員が防火対策を重視して訓練を行っているかにかかっています。したがって、会社側としては、火災安全要件に対する順守状況の監視の役割は当局や船級協会が担っているとしても、船舶が関連の規則(ISMコード第10章)の条項を確実に順守し続けるようにし、また要求される基準(ISMコード第3章および第6章)に従って職務を遂行できるように、乗組員に適正な訓練機会を与え、十分なリソースやツールを配備するための手順を確立する責任は自らにあるということを、肝に銘じておくべきです。
Gardの経験では、火災リスクは保守作業の実施中やその直後に最も高くなりがちです。なぜなら、修理や保守作業の実施に伴うリスクを評価することは難しく、単純作業であると過小評価されてしまうことがあるからです。そうすると、作業中や作業後に特に追加の安全予防措置が施されなくなります。高熱作業を無許可で実施する、火災監視員を置かないなどは、この典型例です。保守作業後は、船舶の航行準備を限られた時間内で実施しなくてはならないため、断熱マットやスプレーシールドが外れていても、放置されてしまうような状況が生まれやすくなっているのです。
大火災は、火災の原因となりうる危険を認識していなかったことから発生しています。火災予防に特に効果があるのは、乗組員を十分に訓練することです。船内で火災を引き起こす要因と、火災によってもたらされる被害の大きさについて、乗組員間で共通認識を持てるように、乗組員に対する訓練を実施し、経験知を交換し合えるような状況を整えるべきです。経験を積んだ消防士でさえ手こずるような火災事故に乗組員が対応しなければならない場合がありえることを忘れないでください。
船舶での火災に関するGard資料
ロスプリベンションポスター: 火は想像以上に早く燃え広がります
ケーススタディ: Engine room fie and failure of fixed fire fighting systems(機関室の火災と固定式消火システムの故障)
ケーススタディ: Engine room fire(機関室の火災)
ケーススタディ: Use of fixed carbon dioxide fire extinguishing systems(固定式炭酸ガス消火システムの使用)
船舶火災に関するプレゼンテーション(2019年):Fire feeds on negligent deeds(火災は不注意から発生します)
Fire prevention in engine rooms(機関室における火災予防)
Fire safety in the engine room(機関室の火災対策)