
2025年1月1日以降にEU/EEA域内での航行歴がある船舶を購入する場合、予想外の費用が伴う可能性があります。FuelEU Maritime規則に基づき、買主は購入した船舶と一緒に罰金も背負うことになりかねません。
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Published 30 October 2024
現状、FuelEU Maritime(以下、「FuelEU」)については、船舶の燃料に関する要件や、温室効果ガス(GHG)強度の引き下げ方法が話題の中心になりがちです。
しかし、FuelEUの罰金制度を考えると、2025年1月1日以降にEU/EEA域内での航行歴がある船舶の売買契約にも影響をもたらすでしょう。
注意すべき問題
FuelEUでは、船舶が売却されても罰金が全額支払われるようにするために、2025年1月1日以降に船舶所有者が変更された場合に関して、次のように定めています。
売主(正確には、当該船舶の適合証書(DOC)の保有者)は、その年の1月1日から本船の運航に関する責任を負っていた最終日までの当該船舶のGHG強度を登録しなければならない。
かかる情報は、当該責任の移転完了後30日以内に検証され、FuelEUデータベースに登録されなければならない。
モニタリングプランを遅滞なく修正し、DOC所有者が買主に変更された旨を反映させなければならない。
買主(正確には、当該船舶の新たなDOC所有者)は、売買が行われた年の1~12月までの当該船舶のGHG強度を引き継ぎ、最終的な責任を負う。本船の運航に関する責任が売主の下にあった期間にGHG強度の上限を超過して生じた罰金の支払いについても、買主が責任を負う。
具体例で考えてみましょう。ある船舶がEU/EEA域内でGHG強度の上限を超える燃料を消費した結果、罰金が生じ、その後2025年6月30日に売却されたとします。この場合、売主は2025年7月30日までに消費燃料のGHG強度を登録し、買主はモニタリングプランを修正しなければなりません。買主が2026年1月31日までに2025年の最終報告を提出した際、売主の罰金に対する責任は買主が負うことになります(あくまで、2025年7月1日~12月31日の期間中、買主が罰金を回避するためにGHG強度を削減する対策を講じなかった場合の話です)。
買主へのアドバイス
中古船を購入し、引き渡しがFuelEUの導入後に行われる場合は、以下の点を確認するようにしてください。
2025年1月1日以降にEU/EEA加盟国への航行歴があるか。
ある場合は、
使用燃料の平均GHG強度はどの程度か。
実際の燃料使用量はどの程度か。
FuelEU規則に適合するために「ボローイング」が行われているか。ボローイングとは、翌年に割増を加えて支払うという約束のもとで罰金の支払いを繰り越すことです。
所有者が変更される前の期間のGHG強度実績に関する報告を売主が変更から30日以内に提出できるか。
基本合意書(MOA)の締結日から引き渡し日までの間に、当該船舶がEU/EEA域内を航行する予定があるか。
売却の前年に当該船舶でFuelEUの罰金が発生していないか。発生している場合、その翌年も罰金が発生すると、2年目の支払額は1割増しとなります。
以上の質問への回答内容によっては、売買契約に条件を加えるか、購入額の調整を検討(年末に罰金を支払わなければならなくなることを踏まえてその分を減額するなど)したほうがよいでしょう。
売買後も規則に確実に適合するためには
DOCの新たな保有者となる買主は、売買が実施された年の1~12月までに発生した罰金について責任を負うことになっています。しかしながら、売主が売却完了後のGHG強度報告義務を果たさなかった場合にどうなるかはまだ不透明です。(FuelEU規則が整合性の確保を図っている)2015年のMRV規則においては、買主が報告義務を負うのは当該船舶が自身の管理下にある期間のみに限られていますが、FuelEU規則ではそのような規定はありません。そのため、この点に関する対応方法を取り決めた具体的な規定を最終契約書に盛り込むことをお勧めします。
FuelEU規則への適合を売主が保証するのも1つの方法でしょう。売主・買主の双方から見て、売却から引き渡しまでの間に当該船舶がそれ以上EU/EEA域内を航行しないことが確実であれば、売主の報告書を事前に準備しておくという対応も考えられます。
買主を確実に保護するためには
FuelEUの発効後は、買主は購入船舶にEU/EEA加盟国域内での運航歴があるか確認が必要になります。所有権が買主に移転する以前に当該地域での運航歴がなければ、さほど心配はいりません。ただし、購入船舶の以前の動静をより詳しく調べる、あるいは、GHG強度上限値の超過により生じた未払罰金の負担が生じないように売買契約書に適切な条項を盛り込む、といったことが必要になるでしょう。例えば、2026年以降に購入する場合は、前年までにボローイング歴がない旨の保証を取り付けることをお勧めします。
売主が売却完了時点でFuelEUのすべての規定に適合していること、および、売却船舶の前年までのGHG強度に関する最新情報と、ボローイング歴がある場合はその詳細を提供することを定めた具体的な条項を、売買契約書に盛り込むのも1つの方法として考えられます。
多くの売買契約書には、引き渡し前に当該船舶になされた請求については売主がすべて買主に補償するとした条項が盛り込まれています(SHIPSALE22第10条など)。ただ、それでも買主を完全に保護できるわけではありません。例えば、GHG排出量が既に基準を超過気味の船舶を年の途中に購入した場合、買主が高価でも排出量の少ない燃料を年末まで使用して上限内に抑えれば、売主には補償条項で定めた罰則は生じません。しかし、買主は高価な燃料を使用したために経済的損失を被ってしまうのです。
また、罰金は年末になってはじめて顕在化するため、引き渡しの時点でGHG排出量が超過していても、リーエン、費用、債務などの(当該条項の意味するところにおける)負債には当たらない、との主張がなされる可能性もあります。そのため、買主はFuelEUへの適合に関する条項を明文で規定したほうがよいでしょう。
売買対象の船舶にFuelEUの排出枠の余剰分がある場合の対応
GHG強度がFuelEUで定める上限値以内に収まった場合は、余剰分を将来に備えて貯蓄(バンキング)したり、GHG強度の高い他の船舶に融通(プーリング)したりすることができます。余剰分は、GHG強度が上限を超過した場合の相殺に使用でき、多額の罰金の支払いを回避できるため、金銭的な価値があるといえます。そのため、余剰分がある船舶の売主は、その分の価値を購入価格に上乗せしてくるものと思われます。
買主としても購入時に余剰分が付いてくれば、他船への融通、自船の排出枠との相殺、今後に備えての貯蓄が可能となり、GHG排出量が多い安価な燃料を使っても罰金が生じることがないため、上乗せ分を支払うこともやぶさかではないでしょう。ただ、こうした余剰分は価値は非常に高いかもしれませんが、その価値を正確に示すのは難しいでしょう。例えば、その余剰分すべてを問題なくプーリングに充てられる保証はなく、プーリングの際に取引費用が発生する可能性も考えられるからです。
買主に余剰分の金額を支払う余裕がない場合は、売主が余剰分の権利を引き続き保持するという方法もあります。その場合、売主は余剰分の使い道についての担保を求めることもできます。売主は、余剰分のプール先を指示する権利を引き続き保持したい場合、買主のその後の航海によって余剰分の増減が起きる可能性があるため、その点を考慮しなければなりません。また、この権利は、船舶の購入後から年末までの間にさらに生じた余剰分を買主(または傭船者)がどのように使用するか、その使い道にも影響を与える可能性があります。
逆に買主は、余剰分を支払うことがやぶさかでなく、支払う余裕もある場合、何らかの理由によってその余剰分が価値を失う、あるいは使用できなくなるリスクを引き受けることになります。そのため、余剰分については利益が得られるまで支払いをずらす、あるいは、実際の価値が確定して利益を得られるまで支払いの一部を保留にしておくとよいでしょう。なお、余剰分をプーリングに使用すると取引費用がかかることがあり、実際に補填できる額が額面より小さくなるため注意が必要です。